夫、ASD(グレーゾーン)と悟る

冬の足音が近づく、2021年11月半ば。
とあるニュースがきっかけで、口論になった。
夫がニュースの内容の意図がつかめなかったという。

 

「言い方で人を追いつめる」という感じの内容だったと思うが、はっきりと憶えていない。
ただ、これが議論のきっかけになり、夜中まで話合うことになる。

 

「言い方で人を追いつめる」ことに関して、夫は困ることがあるという。
それが「追い詰めているつもりはないが、追い詰めているように捉えられてしまう」ということ。
仕事中1対1での対話の時に起こることが多く、夫としてはどうしたらよいかわからないという。
夫にいわせると「単純に疑問に感じるから、ただ素直に分からないことを尋ねているだけ」らしい。

 

「疑問に感じていたとしても、その言い方にもよるんじゃないの?」
「その『言い方』っていうのがわからない。」
「『自分ならどう言って貰うと”楽になる”とか”ちゃんと聞こう”』みたいなこととかないの? そういうところから『詰める詰めない』みたいな認識が生まれると思うんだよね。」
「……??……言ってる意味が全くわからない。自分の中で追い詰めているつもりはない。
『追い詰める』とは、ひどくガナりながら言うものだよ。自分はガナったり荒げたりする言い方はしていない。だから自分のやっていることは「追いつめる」ことではない。
夫は何食わぬ顔でそのように言うのである。

 

『ガナらないから追い詰めない』ということにはならないよ。淡々と言われても追い詰められる時は追い詰められるんだよ?」
「説明してるのに聞いてないから何回も言うし、何回も言わないといけないのは聞いてない相手が悪い。」
夫ははっきりと言い切った。そこで私は、ついに声を荒げてしまうのである。
かく言う私自身も夫から追い詰める言い方をされた経験があり、悲しい気持ちになったことがあるからだ。

 

「ガナることだけが追い詰めることにはならないよ!淡々と外掘を埋めるように質問責めにされることも!聞いてないとされることも!辛いんだよ!!人によっては聞いてたとしても、頭に入ってこない話もあるんじゃないの!?そうした背景があることを考えることはできないのっ!?」

現に、私は詰めた言い方をされると思考がフリーズしてしまう。頭に入るものも入ってこないし、何を伝えてよいか言葉を失ってしまうのだ。
それは、私の実家時代に詰める言い方をされ続け、辛いと感じた経験に因るもの。感極まってしまい、涙ながらに私の方が夫を詰めるような言い方になってしまった。

 

「自分は単純に疑問が生まれるから、その気持ちに忠実に尋ねているだけ。それが『詰めることになる』とは考えたことがなかったし、そんな認識がない。初めてそんなこと言われた……。」
そして夫は続ける。
「ただ、自分以外がそういう風に感じているのなら、そうなのかもしれない……。」

 

自分が人と違う認識をしているという自覚が全くなかったのだと言う。
一般的にちゃんと伝えたいと思うのであれば、もう少し思いやりを持ち、言葉を選ぶ必要がある伝えた。
その上で「可能であれば、その人の背景も想像し、考えながら尋ねた方が良いのではないか」と提案してみた。
私の提案に夫が続ける。
「その『想像』っていうのができないんだ。どういうことなのか分からない……」


これを聞いて、私はもう一つ提案してみることにした。
提案というより、あるサイトの紹介だった。それが簡易的な「ASD診断サイト」である。

もう今、このタイミングで伝えないと、夫には伝えられないし伝わらないような気がした。
夫は黙々と診断向かっている。夫が入力する間、私も試しにやってみる。

深夜も押し迫っていたものの、時間をかけて入力を済ませ、診断結果を表示させる。
やはり夫にはASDの傾向があることが分かった。私が思った通りだった。(因みに私は傾向はなかった。)


「まさか自分が該当するなんて……。」
夫は随分驚いた様子だった。
転勤前の職場に明確にそのような傾向のある「困り感」のある人がいたため、発達障害という存在は知っていた。しかし夫自身がそれに当たるとはつゆも思わなかったらしい。

 

そして、夫は続ける。
「自分でも『何か人とは違うなあとか変わってるよなあ』という自覚はあったけど、その原因は何なのかずっとわからなくて『そんなもんなのか』と思っていた。でも、この診断で自分自身の謎が解けたみたいで嬉しい。」

私は正直ホッとした。逆上するかもしれない懸念も捨てきれなかったからだ。
診断結果を想像以上にプラスに捉えてくれたことにありがたさを感じた。
元来の、夫が持つ素直な性格が功を奏したと言えるだろう。


「悪い風に捉えてなくて安心した。よかった……診断勧めて……。」
安心したら、泣いて声を荒げた反動で睡魔が襲ってきた。
「話すことまだ一杯あるけど、今日は遅いからこの辺にしとこ。疲れちゃった……。」


深夜の冷えも二人で躍起になっていたせいで気づかないまま、床についたのだった。